水道の基礎知識寒冷地設計耐寒性能基準
水道設備には、寒冷地域での使用を想定した耐寒性能基準が設けられています。これは「寒冷地仕様の給水用具かどうか」を判断するための基準であり、すべての給水器具がこの基準を満たす必要があるわけではありません。この記事では、耐寒性能基準の目的・試験条件・対象となる器具・凍結防止設計・水抜き以外の手法・寒冷地仕様の考え方までを詳しく解説します。
日本の水道設備は全国共通の規格をもとに設計されていますが、北海道・東北・北陸などの寒冷地では、冬季の気温が-20℃を下回ることもあり、一般的な給水装置では凍結や破裂の恐れがあります。こうした環境でも安全に使用できるよう、給水用具・バルブ・蛇口などの設計に耐寒性能(寒冷地仕様)の判断基準が設けられています。
・寒冷地での凍結・破損を防止
・寒冷地仕様と一般仕様の区分を明確化
・施工現場で適切な器具を選定するための指標
耐寒性能基準とは、給水装置・給水用具が寒冷地仕様に適合しているかどうかを判断するための基準を指します。凍結防止を目的に設計された製品群(不凍水栓柱・屋内型水抜き栓など)を評価する際に使用されるもので、設置場所や用途によっては必ずしもすべての器具に求められるものではありません。
・凍結を想定せず、外気温が0℃以下になる期間が短い地域向け
・断熱材は最小限/水抜き設備なし
・凍結・氷点下に耐える構造を持つ
・保温層・ヒーター・水抜き機構などを組み合わせている
・-20±2℃の試験で凍結破壊がないことを確認
耐寒性能試験に用いられる-20±2℃という条件は、寒冷地の冬季最低気温を想定した設定です。気象庁のデータをもとに、北海道や内陸高地での一般的な外気温環境を再現しています。この条件で一定時間暴露しても、構造破壊・水漏れ・動作不良が起きないことが確認されると、寒冷地仕様としての適合が認められます。
耐寒性能基準では、凍結防止方法を水抜き操作に限定していません。電熱ヒーターによる加温、断熱材の厚み強化、循環水方式、保温カバーなど、複数の手段が対象になります。重要なのは、氷点下でも配管・弁体が凍結・破裂しない性能を確保することです。
耐寒性能基準の対象は、凍結の恐れがある場所に設置される給水用具が中心です。代表的な例を以下に示します。
・不凍水栓柱・不凍立水栓
・屋外・半露出型の止水栓/給水バルブ
・寒冷地仕様の混合水栓/水抜き栓付水栓
・露出管に設置する止水弁や接続継手
一方で、暖房の効いた屋内や凍結の可能性がない場所に設置する場合、すべての器具がこの基準を満たす必要はありません。用途と設置環境に応じた選定が求められます。
耐寒性能試験では、低温暴露後に確認すべき性能項目の中から浸出性能(材質からの溶出)は除外されています。理由は、-20℃程度の低温では材質の化学的変化がほとんど起こらず、浸出成分が変化する可能性が極めて低いためです。つまり、物理的強度や機能保持が中心評価項目であり、化学的安定性は既存の安全基準で担保されていると考えられています。
寒冷地仕様の給水用具では、金属・樹脂それぞれの物性を考慮した設計が求められます。凍結による体積膨張を吸収できる余裕空間の確保、材料間の熱膨張率の違いへの対応、熱伝導率の低い樹脂材の採用などが重要です。
・金属製品:空洞構造・二重パイプで破裂吸収
・樹脂製品:断熱層・外皮の厚み強化で保温
・接合部:異種金属接触による熱応力を回避
・断熱材+防水テープで被覆し、通水部には不凍水栓柱を採用
・寒冷地仕様水栓は耐寒性能基準に基づき-20℃でも破裂なし
・壁内ルートに断熱スリーブを挿入し、空気層で熱伝導を抑制
・開口部周辺には冷気侵入を防ぐ風よけ構造を採用
耐寒性能基準は、寒冷地で使用される給水装置の信頼性を確保するための設計・試験基準です。試験条件は-20±2℃。評価の中心は凍結破壊に対する耐性であり、凍結防止方法は水抜きに限られません。設置環境に合わせた器具の選定・施工・保温対策が何より重要です。